お知らせ・コラム
News & Column
税務調査において事実と異なる回答をすると必ず重加算税なのか
別のコラムにおいて、個人事業主に課せられる重加算税について取り上げました。
個人事業主に課せられる重加算税とはどういったものか
今回、そこで取り上げた重加算税のケースのうち、税務調査にて虚偽の答弁をおこなったケースについて、実際の税務調査で起きた事例に基づき検討します。
【目次】
- 実務運営指針に明記されていること
- 事実と相違する答弁を行ったが重加算税を回避できたケース
- まとめ
1.実務運営指針に明記されていること
実務運営指針では、重加算税の要件として、①虚偽の答弁を行うこと、及び②その他の事実関係を総合的に判断して、仮装隠蔽が合理的に推認できること、とされています。ここからわかることは、事実と相違する答弁をおこなっただけでは重加算税にならない可能性がある点です。つまり、結果的に事実と相違する答弁をおこなったものの、仮装隠蔽が合理的に推認できなければ、重加算税を回避できる可能性があります。
申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
第1 賦課基準
(隠蔽又は仮装に該当する場合)
1 通則法第68条第1項又は第2項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」とは、例えば、次に掲げるような事実(以下「不正事実」という。)がある場合をいう。なお、隠蔽又は仮装の行為については、特段の事情がない限り、納税者本人が当該行為を行っている場合だけでなく、配偶者又はその他の親族等が当該行為を行っている場合であっても納税者本人が当該行為を行っているものとして取り扱う。
⑻ 調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。国税庁HPより抜粋。下線は、コラム作成者による。
2.重加算税を回避できたケース(愛知県名古屋市の個人事業主)
事実と相違する答弁を行ったが重加算税を回避できたケースを取り上げます。愛知県名古屋市在住の個人事業主のケースで、売上規模は年間30百万円程度です。顧問先ではなく、税務調査で初めて関与した先でしたが、税務調査前にヒアリングした結果、売上が入金されている口座は2つと聞いていました。以下、税務調査の流れをざっくりと記載しています。
- 税務署の職員が、同じ質問をおこない、納税者は2つの口座のみと回答
- 税務署の職員が、売上入金口座は他にないか質問を行い、納税者はないと回答
- 後日、税務署の職員が、別の口座に売上が入金されていることを確認
- 納税者が虚偽答弁を行ったと判断し、税務署の職員は重加算税であると主張
税務署の職員から、別の口座に売上の入金があったとの連絡があった時、私自身「えっ?」となりましたが、すぐに納税者に確認しました。そして、納税者はその時に思い出したような感じでした。整理すると、以下のような状況でした。
- 売上が入金されていた時期は3年前。頻度は数回程度。金額も合計で数十万円程度
- 取引先は1社のみで、今は取引実績なし。
- それ以降、指摘された口座に売上は入金されていない
確かに、事実とは異なる答弁をしたのですが、事実を知りながら事実と相違する答弁をしたのではなく、忘れていたため事実と相違する答弁をしたようでした。そこで、我々は虚偽答弁をしたつもりはなく、事実関係を忘れていたため誤った回答をしたと主張しました。ここで大事なのは、先に挙げた実務運営指針のその他の事実関係を総合的に判断してという箇所です。取引がなくなって3年経過している取引先について、すべて覚えていますかという話です。年間の売上先は20先ほどあり、本人が1つ1つ覚えているとはとても思えません。しかも金額も全体に対してそれほど多額でもない。先に挙げた事実関係から、仮装隠蔽を合理的に推認できると税務署側が主張できなかったこともあり、重加算税は回避することができました。もし、以下のような条件だったら難しかったかもしれません。
- 売上が入金されていた時期は1年前。金額も数百万円規模
- 当時は主要な取引先であった
なぜなら、もともと主要な取引先で、取引金額も大きかった場合、覚えていないという回答はあり得ないよねというロジックです。しかし、税務調査の実務では、結局、仮装隠蔽か否かは、証拠がない場合、本人しかわからないため、税務署としても難しい判断に迫られることが多いのも事実です。だからこそ、調査官は、重加算税を取りたい場合は、質問応答記録書を作成して証拠にしようとします。質問応答記録書については、以下参照ください。
税務調査の質問応答記録書にはすぐにサインしなくていい
3.まとめ
税務調査の基本として、嘘をつかないことが大事ですが、それでも今回のような結果的に事実と相違することを話してしまうケースもあり得ます。その場合でも、忘れていたとか思い込んでいたといった背景があるのであれば、それをしっかりと主張することが大切です。また、これも税務調査では大事なことですが、質問内容についてしっかりと覚えていないのであれば、積極的に発言せずに、あとから確認して回答するという姿勢も大切ですので、その点も覚えておくとよいと思います。税務調査の全般的な対応方法については、こちらもご覧ください。
税務調査にはどのように対処すべきか。
当税理士事務所は最初の相談は無料で受けています。そして、税務調査の立会いを依頼した場合の料金は広告を出していない分、他の税理士よりも安く設定しています。詳細はこちらをご覧ください。