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税務調査の質問応答記録書にはすぐにサインしなくていい
税務調査の過程において、調査官が質問応答記録書を作成し納税者にサインを求めることがあります。この質問応答記録書は税務調査の結果に大きな影響を及ぼす可能性があるため、この対応方法については予め知識として持っていた方がよいと思います。ということで、今回は質問応答記録書についてご紹介します。
【目次】
- 質問応答記録書とは
- 質問応答記録書が作成されるケースは
- 質問応答記録書のサインを求められた場合の対処方法
- その場ですぐにサインしない(回答を保留する)
- 質問応答記録書にサインする場合、記載された内容が事実か確認する
- 質問応答記録書のサインした後でも訂正は可能
- まとめ
1.質問応答記録書とは
質問応答記録書作成の手引には、「課税要件の充足性を確認するうえで、重要と認められる事項について事実関係の正確性を期するため、その要旨を記録し、統括官等に報告するために税務調査官が作成する行政文書」と記載されています。これだけではよくわかりませんが、要は税務調査で判明した事実(例えば、売上除外という事実)を記載し、その内容が正しいことを証明する(納税者がサインする)書類です。事実を証明する書類であるため、税務調査の結果に影響を及ぼす重要な証拠になる可能性があります。だからこそ取り扱いには注意が必要です。
2.質問応答記録書が作成されるケースは
先ほど事実を証明する書類と書きました。そして、調査官に有利な結論を導く上での証拠書類になるため、調査官が重加算税を課したいときに作成されることが多いです。税務調査の実務では、仮装隠蔽による重加算税を課したくても物的証拠がないケースがほとんどです。そのため、調査官としては何かしらの証拠を残すために、質問応答記録書を作成します。
3.質問応答記録書のサインを求められた場合の対処方法
まず大前提として、質問応答記録書へのサインは義務ではありません。拒否することが可能です。国税庁が作成した手引では、納税者が質問応答記録書へのサインを拒否した場合の指針が明記されていますが、その中では署名・押印を強要することはもとより、そのような疑義を生じさせる言動をしないよう留意する。とも書かれており、拒否することは可能です。これを知っておくと交渉カードとして使えることもあります。例えば、経費のグレーゾーンでもめている事項があり、質問応答記録書にサインし、そのグレーゾーンを認めてもらった方が全体としてプラスであれば、交換条件にすることも交渉方法としてはありだと思います。話が少しそれましたが、質問応答記録書へのサインは義務ではないという大前提の下、以下の点に注意してください。
1.その場ですぐにサインしない(回答を保留する)
先ほど、調査官が重加算税を課したいときに質問応答記録書を作成するとお伝えしました。となると、基本的に納税者には不利な書類になる可能性が高いです。だからこそ、あいまいな回答はするべきではありません。調査官からはどうして回答できないか?と聞かれますが、その際は、「正確に思い出せないので、確認します」とか「わからないので回答できません」とか、そのように伝えましょう。そもそも、過去の事象を何から何まで正確に覚えている人間なんていませんので、何ら問題はありません。勿論、はっきり記憶していて、かつ事実であればサインしても問題ないですが。とはいえ一人で税務調査に臨んだ場合、慣れない税務調査というプレッシャーから安易に認めてしまう事が多いのも事実です。調査官「~ですよね?」、納税者「そうですね…」といった流れになりがちです。特に税理士が立ち会っていない場合、このように誘導尋問のような形で進むことも多いです(本当はダメです)。だからこそ、税理士に立会いを依頼することも検討してください。
繰り返しになりますが、「わからないものはわからない」「記憶があいまいであれば、今は回答できない」としっかりと主張しましょう。でも嘘はつかないでください。
2.質問応答記録書にサインする場合、記載された内容が事実か確認する
サインが義務ではない以上、絶対にサインしないというスタンスの納税者(or税理士)もいるかもしれません。しかし、調査官と対立しているだけでは交渉が有利に進まないことも多いため、記載内容が事実であれば最終的にはサインしても問題ありません。その場合、納税者に不利な文言になっていないか、時間をかけて確認してください。私が立ち会うケースでも、時間をかけて確認し不利な解釈をされそうなあいまいな文言や仮装隠蔽をにおわせる文言(例えば、~を隠ぺいして、意図的に~といったものです)については、事実と異なるのであれば修正依頼します。
4.質問応答記録書のサインした後でも訂正は可能
訂正は可能です。実際にサイン後に訂正した事例もあります。一つ事例を挙げると、最初は一人で税務調査に臨んだ結果、調査官の誘導尋問もあったのか、ご自身の考えとは異なる質問応答記録書が作成されサインまでしてしまいました。その後、私のところへ駆け込み、次の立会いで質問応答記録書で事実と異なる部分を全て修正し、書き換えてもらいました。このように、税理士の立会いがあったからこそ訂正できましたが、一人で続けた場合は重加算税が課せられた可能性が高かった事例です。このように訂正は可能ですが、訂正するにしても説明が求められますので、訂正しなくて済むように対処することが大切です。
5.まとめ
特に仮装隠蔽による重加算税が論点になる際にでてくる質問応答記録書について取り上げました。質問応答記録書は、税務署に有利な証拠書類になるため「即答しない」「あいまいな状況で同意しない」事が大切です。そして、質問応答記録書にサインする場合は、内容をしっかり確認し事実と異なる箇所は全て修正した上でサインするようにしてください。
今回は、質問応答記録書に絞ってお伝えしましたが、税務調査への全般的な対応方法や予告なしに税務調査が来た場合の対応方法については別のコラムでまとめていますので参考にしてください。
当税理士事務所は、質問応答記録書についてはその時の税務調査の状況をみながら、不利にならないような形で税務署に協力できるかを検討します。重加算税が課されるような案件の場合、今回の論点は切り離せませんので是非ご相談ください。当税理士事務所は最初の相談は無料で受けていますので、その無料相談でも可能な限りの事はお伝えします。そして税務調査の立会いを依頼した場合の料金は広告費にお金をかけていない分、他の税理士よりも安く設定しています。
質問応答記録害作成の手引について(情報)から抜粋
問28 回答者が署名・押印を拒否した場合は、どのように対応すべきか。
まず、回答者から署名・押印を拒否する理由を確認する。
回答者が、記載内容につき追加・削除・変更の申立てがあることを理由に署名・押印を拒否した場合、質問応答記録書の本文に当該申立て内容を追記し【問19参照】、改めて署名・押印を求める。特に、回答者が、「回答の中に正確でない部分がある。」などと暖昧に述べて署名・押印を拒否した場合、そのまま放置すれば質問応答記録書に記載された事項の全ての信用性が失われるので、新たな質問を行うことにより、具体的に正確ではない部分を特定し、当該事項に閨する正確な回答やその要因を記載する。
他方、回答者が、記載内容につき追加・削除・変更の申立てがない旨を述べながら、署名・押印を拒否した場合、又は回答者が署名・押印を拒否する理由を述べない場合には、事案や回答者の言動に応じ、例えば、 「訂正すべき事項があれば訂正をします。」、「内容に間違いがなければ、その正確性を確認してもらった証として署名・押印をしてもらいたいのです。」、 「もし後で何か思い出したり、間違いに気が付いたら、更に話を聞くこともできます。」などと回答者に申し向け、署名・押印をするよう説得する。ただし、署名・押印を強要することはもとより、そのような疑義を生じさせる言動をしないよう留意する。かかる説得をしても、なお回答者が署名・押印を拒否した場合は、署名・押印を予定していた箇所は空欄のままにし、奥書において、回答者が署名・押印を拒否した旨(可能な限り、本人から拒否理由を聞き出してそれも付記すべきである。)を記載する。また、回答者が署名・押印を拒否したものの、記載内容に誤りがないことを認めた場合にはその旨も記載する。 【奥書・その他1 (4)参照】更に、回答者がページ欄外の確認印の押印に限り同意した場合は、これを行わせる。【奥書・その他1 (5)参照】回答者の署名・押印、確認印がない場合であっても、調査担当者(質問者及び記録者)は必ず所定の箇所に署名・押印し、契印を施すなどして、書類として完成させる。なお、回答者の署名・押印がない質問応答記録書であっても、争訟となった場合の証拠となることから、署名・押印を拒否した理由や、記載内容に誤りがないことを認めたか否かは重要であるので、質問応答記録書にその旨を記載すべきことはもとより、回答者の署名・押印が得られなかった理由・経緯等で特記すべき事項があれば、その旨を記載した調査報告書を作成する。