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役員ではない奥様への給与支払いに関する税務調査の論点
親族に役員報酬を支払う事で節税を図る方法は、多くのオーナー企業が実行しています。その方法についてお伝えしたのが以下のコラムですが、当該コラムでは特に非常勤の役員に対する報酬について注意点をお伝えしました。
法人の節税方法について…出張旅費規程と役員報酬の活用
今回は、役員ではなく従業員である親族に払った給与についてです。具体的には、名古屋市で建設業を営む法人の税務調査を取り上げますが、この税務調査は幾つか論点がありましたので、ここで取り上げる論点以外については以下のコラムをご覧ください。
架空の人件費が計上されていたら必ず重加算税か
【目次】
- 親族等への給与に関する規定
- 不相当に高額な給与とは
- 給与が不相当であると否認されそうな事例
- 給与が不相当であると実際に争った事例
- まとめ
1.親族等への給与に関する規定
法人税法では、親族等に対して支給する給与について不相当に高額な部分は、損金算入を認めないと規定しています。例えば、奥様に100万円/月支払っていて、不相当に高額な部分が60万円と認定されてしまうとその60万円は損金算入できません。40万円は相当な金額なので損金算入可能です。そして、”特殊の関係のある使用人”については、法人税法施行令において以下のように規定されています。ざっくりいうと家族ですね。
法人税法
(過大な使用人給与の損金不算入)第三十六条 内国法人がその役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
法人税法施行令
(特殊関係使用人の範囲)
第七十二条 法第三十六条(過大な使用人給与の損金不算入)に規定する政令で定める特殊の関係のある使用人は、次に掲げる者とする。
一 役員の親族
二 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者
三 前二号に掲げる者以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
四 前二号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
なぜ、法律は家族等への給与について制限をかけているのでしょうか。理由は簡単で、無制限に損金算入を認めてしまうと不当な税金逃れになると国が考えたからです。しかも給与所得控除も存分に活用できますし。そこで不相当に高額ではない部分に限って、損金を認めましょうとしました。
2.不相当に高額な給与とは
では、不相当に高額な給与とは具体的にどの程度なのでしょうか。法人税法施行令に規定されており、以下の項目に基づき総合的に判断するとされています。
1.従業員の職務内容
2.法人の収益状況
3.その他の従業員の給与状況
4.同規模で同業他社の従業員給与の水準
法人税法施行令
(過大な使用人給与の額)第七十二条の二 法第三十六条(過大な使用人給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、内国法人が各事業年度においてその使用人に対して支給した給与の額が、当該使用人の職務の内容、その内国法人の収益及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額(退職給与にあつては、当該使用人のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した使用人に対する退職給与として相当であると認められる金額)を超える場合におけるその超える部分の金額とする。
1.給与が不相当であると否認されそうな事例
分かりやすいように、奥様に月100万円渡しているという前提で考えてみます。あくまで以下の事項を検討した上で総合的に判断します。⇐よくわからない言葉です。最近、コロナ関連で政治家がよく使う言葉ですよね。
1.従業員の職務内容
⇒その配偶者が経理しかやっていない場合(中小企業でよくあるケースです)、100万円という対価は合理的でしょうか。合理的ではありません。なぜなら別の従業員を採用して経理を担当してもらった場合、月30万円位ではないでしょうか。つまり支払った金額と職務内容が釣り合っていないため、否認されるリスクが限りなく高いです。上場企業の経理部長クラスでも月100万円貰っていない事の方が多い気がします。
2.法人の収益状況
⇒法人が継続して赤字なのに、妻に月100万円も渡す合理性ってありますか?という事です。通常、会社の業績が悪ければ人件費を含めた経費削減を実行しますので、月100万円という額に正当性が認められません。
3.その他の従業員の給与状況
⇒妻には月100万円渡していて、他の従業員には同じレベルの仕事をしてもらっているのに月30万円しか渡していければ当然おかしいですよねという話です。
4.同じ規模の同業他社の従業員給与の水準
⇒同規模の同業他社と比較して、妻に支払っている報酬があまりに多いとダメですよという事です。同規模であれば、何となく他社の給与水準も推測できますので、その推測した金額から乖離すると税務調査では否認されるリスクがあります。
2.給与が不相当であると実際に争った事例
私が立ち会ったケースでは、奥様に月20万円支払っていました。作業内容としては、領収書やレシートの整理、物品の購入や発送、外注先等への支払いといった業務です。調査官からかなりしつこくヒアリングされました。週に何日・何時間働いてもらっていたのか、自宅と事務所が離れていたので事務所には週何日来ていたのか、どの銀行で振り込みをやっていたのか等々、調査官は根掘り葉掘り質問していました。当然、奥様にも直接電話などでヒアリングをしていましたし、本当に銀行で振り込みをしたのか、ATMのカメラをチェックするために銀行に反面調査にも行っていました。ATMカメラのチェックまでされたのは、私はこの税務調査が初めてです(実際は他の税務調査でもやっていて、私たちにその話をしていないだけかもしれませんが)。ATMのカメラをチェックしたのは重加算税を取りたかったからだと思います。チェックして奥様がカメラに写っていなければ、調査官に嘘をついたことになるため重加算税を課しやすくなります。結果的には嘘ではなかったようです。
それ以外にも、ここでは明かせないような事が色々とあったのですが、結果的には月20万円の給与は否認されませんでした。厳密に言うと20万円相当の仕事はしていなかったと推測していますが、ATM振込実績があるなど何かしら仕事をしていたことは認められる点、不相当に高額な金額を税務署が設定することが難しかった点(私が調査官に言ったのが、「否認したいみたいですけど、結局いくらが妥当なんですか?その根拠は何ですか?」です)、そもそも月20万円と金額が小さく、否認したところで大した増差にもならない点かなと。
3.まとめ
紆余曲折がありましたが(税務調査対応とは違うところで大変でした)、奥様への給与は問題ありませんでした。しかしここでお伝えしたいのは、調査官によっては(その後ろにいる統括官によっては)月20万円でも税務調査ではもめる点です。ですので、親族等への給与金額が不相当な場合は必ず税務調査ではもめますので、ちょっと金額が大きいかなと感じる場合は必ず税務調査前に顧問税理士に相談した上で作戦を練ってください。顧問税理士がいない場合は(法人の多くはいると思いますが)、当税理士事務所のような税理士に相談してください。
今回のコラムでは役員ではない奥様への給与支払額に焦点を当てましたが、もう1つ重要な論点があります。今回のように形式上は役員ではなかったとしても、実質的には役員であると認定されるケースです。このケースについては以下のコラムで取り上げましたので参考にしてください。
みなし役員の税務調査での留意点