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架空の人件費が計上されていたら必ず重加算税か
名古屋市で建設業を営む法人の税務調査に単発で立ち会いました。調査期間は3年で、最初の2年は別の税理士事務所がサインし、最後の1年は新しい事務所がサインしていました。主要論点は3つです。
①過去に現金で支払ったと記帳されている給与の実在性
②奥様への給与金額(役員報酬ではありません)の妥当性
③個人契約した事務所について仕入税額控除が認められるか
①と②はかなりもめて担当した調査官もがっつり調査していました。このコラムでは③をさらっとお伝えした上で、①についてご紹介します。②については以下のコラムで紹介します。
役員ではない奥様への給与支払いに関する税務調査の論点
【目次】
- 個人契約した事務所は、仕入税額控除は認められるか
- 架空?の人件費は重加算税が課せられるのか
- 税務調査で判明した事実関係
- 税務調査での社長の主張
- 税務署の統括官は、重加算税と主張
- まとめ
1.個人契約した事務所は、仕入税額控除は認められるか
前の税理士事務所が仕入税額控除の対象であるという前提で仕訳を起票していたため、新しい事務所の担当者も同じように処理していました。しかし契約書をよくよくみると、代表者個人の契約でしかも住居用という形でした。そして社宅っぽい要素もありました。従ってこの事務所家賃は契約上は非課税取引であり、実態も社宅と言えなくない状況。となると仕入税額控除が認められるのは難しいということになりました。
2.架空?の人件費は重加算税が課せられるのか
1.税務調査で判明した事実関係
まず事実関係をお伝えすると(金額は事実と異なります)、3期前の決算書において説明できない給与が計上されていました。元帳をみると月30万円の給与を4カ月間支払っており、かつ現金払いで処理していました。2期前や前期の決算書にはそのような事実はありませんでした。
2.税務調査での社長の主張
社長はどうしてこの給与が計上されているかわからないと一貫して主張しました。また現金で給料を払った記憶はないとも主張しました。そして、幸か不幸かこの決算書を作成したのは前の税理士事務所であり、私たちにはその経緯を知る由はありません。このような事象があったため架空?と書きました。
3.税務署の統括官は、重加算税と主張
調査官の上司である統括官は、支払っていない給与が計上されたので重加算税ですと主張してきました。私はその時、もう本当に「はい?」となりました。「その根拠は?」と私が問うと、社長が払っていないと言っている給料が経費として処理されているからですとの回答です。税務調査に慣れていない場合、なんとなく違和感のない理由のように聞こえますが、これでは重加算税を課すことはできません。その理由をこれからご説明します。
国税通則法68条では、仮装隠蔽した場合に重加算税が課されると規定されています。そして、仮装隠蔽行為とは、以下の通り、故意に行うことが必要とされています。
事実を隠ぺいするとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、事実を仮装するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するものと解すべきである。
(和歌山地裁昭 52・6.23 判決)
今回の税務調査おいて、税務署は故意に行ったことを立証しているのでしょうか?全く立証できていません。社長は払ってないと思うと言っているものの(記憶があいまい)、なぜ経費として処理されたかについてはわからないと主張しているからです(まったく記憶がない)。例えば、社長が税理士事務所に給与を支払ったと虚偽の報告をしましたと自白したり、前の税理士事務所が社長から払ったと報告があったので、そのように記帳しましたとの回答を得たのであればまだわかりますが、そのようなことは一切なく重加算税を課そうとするのはなんなの?という感じです。因みに、私が税務調査に立ち会う場合、「前の税理士事務所が、社長から払ったと報告があったので、そのように記帳しましたとの回答を得た」だけでは重加算税は認めません。なぜなら、前の税理士事務所が嘘をついている可能性があるためです。本当は、その税理士事務所が間違っていたにも関わらず、その責任を負いたくないため嘘をついている可能性も否定できないためです。社長から税理士事務所にメールなどで指示した場合など、証拠が残っていない限り重加算税については戦います。
3.まとめ
私は当然だと思いますが、この税務調査では重加算税は課されませんでした。重加算税を課すことが難しいとわかった上でとりあえず主張したのか、本当に重加算税を課すべき案件と考えて主張したのかはわかりませんが、国税はとにかく重加算税を課したいので、本来課すべき案件でないにもかかわらず重加算税を主張することは非常に多いです。税理士がついていない場合、その傾向が一層高まります。このような理不尽な主張と戦う為にも、顧問税理士がいない場合、税務調査の連絡が来たらすぐに税理士に相談することをお勧めします。当税理士事務所の料金等については、以下ご覧ください。
税務調査の料金やご利用の流れなど