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無申告・期限後申告の実例。愛知県名古屋市の個人事業主
名古屋市のある区の税務署から申告に関する問い合わせのはがきが届き、びっくりして私たちに連絡がありました。この個人事業主の方は、東海地区でかなり大きい会社の下請けとして、家族で仕事をしていました。無申告の期間も長く、10年弱の無申告期間があったと思います。今回は、この無申告案件についてご紹介します。
【目次】
- 無申告がなぜバレたのか
- 期限後申告の対象期間
- 期限後申告のための手続き
- 通帳の履歴
- クレジット明細
- レシートや領収書など
- 白色事業専従者
- まとめ
1.無申告がなぜバレたのか
本人に聞きましたが、元請に税務調査が来た様子はありませんでした。また、どこかのコラムでも書きましたが、”税務署は3年泳がせる”という本があるように無申告であることを把握していたとしても、多額の税金を取るために数年税務調査に入らないという事も普通にあります。しかし、本件は無申告になってから10年弱経過しているため、泳がすだけ税金をとれない期間が積み重なるためその可能性も低いです。
結局、バレた理由はわかりませんでしたが、税務署による定期的な銀行口座の開示要請でたまたまバレたか、タレこみでバレたか、運悪く見つかったという事でしょう。10年弱見つからなかったので、運が良かったともいえるかもしれませんが。
2.期限後申告の対象期間
5年です。無申告は原則として5年分申告すれば問題ありません。偽りその他不正の行為と認定されると対象期間が7年になりますが、基本的にはこの偽りその他不正の行為には該当しないという前提で、期限後申告をおこないます。
3.期限後申告のための手続き
1.通帳の履歴
通帳は、銀行に問い合わせることで過去5年分の履歴が取れますので、通帳記帳していなければ銀行で手続きをすることで履歴を入手します。本件では、しっかりと通帳記帳していたので、そのまま利用しました。全ての銀行に当てはまるか否かはわかりませんが、通帳には振込先が記載されているが銀行で履歴を入手すると、振込事実はわかるが振込先が記載されていない場合があります。振込先が記載されていないと、どこに振り込んだか思い出してもらう必要があり、しかも5年間となると結構大変な作業になります。
売上について
売上は請求書もあり、通帳の入金実績もあったため、容易に集計できました。
外注費について
外注先からの請求書などはありませんでしたが(そもそも貰っていなかった)、現金手渡しはなく全て振り込みだったため、過去5年間の通帳履歴から振込先を確認した上でもれなく外注費を計上できました。⇐外注費を漏れなく経費計上できたのは大きかったです。
消耗品費(仕入)について
それほど多額の仕入はありませんが、数カ月に1度の頻度で材料の仕入れがありました。こちらは請求書が一部残っていたこと、全て振り込みとの回答を得ていたため、主要な仕入先に支払った金額はほぼもれなく経費計上できました。
2.クレジット明細
仕事とプライベート兼用で使用していました。そのため、仕事用を抽出した上で経費処理する必要があります。本人にヒアリングすれば、ほぼほぼ仕事用なのか私用なのかはわかるので、確実にわかるものを除き、本人にヒアリングしながら、経費抽出しました。
ガソリン代
車はほとんど仕事でしか使用していなかったため、クレジット明細にENEOS等の燃料代とわかるものは経費処理しました。
高速代
ガソリン代と同じ考えで経費処理しました。高速代は現金支払いだとレシートがないと経費処理が漏れてしまいますが(しかも捨てがち)、ETC利用の場合クレジット明細といった形で利用実績がわかるため、高速代については、ETC利用しているか否かで経費処理できる金額は大きく異なってきます。本件はETC利用だったため、ほぼほぼ経費処理できたと思います。
飲食代
これは、クレジット明細でどこで食事したかわかるので、それが仕事で食事したのか、私用で食事したのかを本人にヒアリングした上で、経費処理しました。
3.レシートや領収書など
正直、それほど残っていませんでした。残念!
4.白色事業専従者
今回の無申告・期限後申告で一番きつかったのは、この白色事業専従者です。下記のコラムでもまとめている通り、白色申告の場合、支払える給料は、個人事業主の配偶者は86万円、配偶者以外の親族は50万円と決まっています。今回の個人事業主の場合、家族複数人で仕事を請け負っており、しかも全員が週5以上働いている状況でした。となると、年間50万円の給料はあり得ません。300万円から400万円程度はあるはずです。青色申告でしっかりと給料を支払っていれば、50万円ではなく、その6倍とか8倍の金額を経費として処理できたにもかかわらず、それができませんでした。
他の項目で経費を合理的に積み増したにもかかわらず、この白色事業専従者のルールが影響し、結構な所得金額にならざるを得ませんでした。これは本当に痛かったです。
4.まとめ
今回の無申告・期限後申告の案件は、5年分確定申告書を作成した上で税務署の担当者に説明することで、特段チェックされることもなく終わりました。
今回のポイントは、家族経営の個人事業主で白色申告の場合、所得が高くなりがちという点です。そして、無申告の方が期限後申告する場合、多くは白色申告なので、税負担は増えがちです。そこがつらい点かなと思います。
当税理士事務所の顧問先には、今回の個人事業主も含めて家族で仕事をしている方がいます。個人事業主にしわ寄せがいかないように、しっかりと働いている家族には、20万円/月なり40万円/月なり支払うように申告しています。所得は分散した方がトータルでは安くなるので。勿論、青色申告前提です。
無申告事案は大変な労力がかかるため引き受けない税理士もいますが、当税理士事務所では、今後適正に納税することを大前提として積極的に引き受けていますし、料金も広告にお金をかけていない分、申告料金を安く設定しています。