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個人事業主が法人成りを検討する際に注意する事
個人事業主の方が、ある程度利益が出始めると、法人化を検討します。当税理士事務所の顧問先も毎年個人事業主から法人成りしています。決算月を分散でき、報酬も増えるため、税理士は法人化を勧めがちですが、全ての個人事業主にとって法人化のメリットがある訳ではありません。私たちは、メリットが小さい場合は正直にそのようにお伝えしています。実際に、いったん断念した方もいます。そこで、今回は、法人化を検討する際に、どのような視点を持つべきかについてご紹介します。
【目次】
- 法人化する理由をしっかり考える
- 法人化のメリット
- 法人化のデメリット
- 法人化の具体的な検討
- 従業員がいない場合
- 従業員がいる場合
- まとめ
1.法人化する理由をしっかり考える
これから、法人化のメリット・デメリットを紹介しますが、それらを考慮しつつ、なぜ法人化するのか、ご自身で考えてください。単に顧問税理士が勧めるがままに法人化するのではなく、主体的に考えることが大切です。結果として、法人化する理由が税務メリットを享受するためだけでもよいです。とにかく、皆さんが主体的に検討した結果、法人成りするというプロセスが大切です。当事務所では、ある程度利益が出始めると、法人化した場合のメリット・デメリットはお伝えしますが、実際に法人化の検討に入るか否かはご自身で考えてもらっています。
2.法人化のメリット
法人化のメリットを、リストしてみました。※1は、法人成りシミュレーションソフトで加味する項目です。
- 取引先や金融機関からの信用が高まる
- 社会保険加入により優秀な従業員を採用できる可能性が高まる
- 一定以上の利益が出ると個人事業主よりも税務メリットを享受できる ※1
- 給与所得控除を享受できる ※1
- 一定の要件を満たせば最初の2年間は消費税が免税される
- 個人事業主では使えなかった節税手法を活用できる
- 社会保険加入により将来の年金受取額が増える
顧問先と話をしていると、消費税2年間免除される点に大きなメリットを感じる様です。確かに100万円、200万円払っている税金が2年間免除されると思うと大きいです。ただし、あくまで2年間でしかないので、当税理士事務所は、法人化の有利・不利判定を数値化する際は考慮しません。また、建設業の場合、現場に入るには社会保険に入る必要があるような話も聞きます。そういう理由もあって、法人化するケースもありました。
3.法人化のデメリット
次に法人化のデメリットを、リストしてみました。
- 最初に設立費用が発生する
- 赤字だったとしても一定額の税金支払いが発生する(法人住民税の均等割) ※1
- 従業員の社会保険の一部を会社が負担する ※1
- 確定申告書が煩雑になるため、税理士が必要な場合が多い(コスト増) ※1(必要に応じて)
- 社会保険加入に伴い給与計算が煩雑になる(コスト増) ※1(必要に応じて)
- 損金にできる交際費に限度がある
- 税務調査に選定される可能性が個人事業主よりも高い
私は、従業員分の社会保険料負担が一番インパクトがあると考えます。社会保険負担は本当に重たいので、実際に検討している顧問先と話をしていると、この点はかなりネックになります。そのため、社会保険負担がどれ位増えて、その負担増を相殺するために、どれ位売上を増やさなければならないかなどを協議しています。しかし、建設業の場合、法人成り後の建設国保に継続して加入できる場合があります。この建設国保について別のコラムでまとめていますのでご覧ください。実際にこの制度を利用して、法人化後も建設国保に加入し、健康保険負担を減らした顧問先がいます。
4.法人化の具体的な検討
下記の例は、国民年金を払っていない場合や、奥様の国民年金も払っている場合などがありますし、前年度の所得の影響も反映されていますが、そういった細かい条件までは記載しません。あくまで1つの参考例としてお考え下さい。
1.従業員がいない場合
この場合は、従業員の社会保険負担を考慮する必要がないため、今の所得がそれほど大きくない場合でも、法人成りした方が有利になるケースがあります。例えば、所得が500万円程度でも有利になる場合があります。私が活用している法人成りシミュレーションソフトを使って計算してみました。細かな説明は割愛しますが、以下の設定で計算しています。
- 個人事業主:所得金額500万円(青色申告特別控除65万円控除前)
- 法人:年間の役員報酬300万円
現状 | 法人成り後 | 差額 | |
所得金額 | 500 | 500 | |
税金合計 ※1 | 75 | 58 | -17 |
社会保険料合計 ※2 | 79 | 94 | 15 |
税金社会保険合計 | 154 | 152 | -2 |
手取り額 | 346 | 348 | 2 |
※1:個人⇒(所得税、住民税、個人事業税)法人⇒(法人税、住民税、事業税)
※2:個人⇒(国民健康保険、国民年金)法人⇒(健康保険、厚生年金。会社負担分も含む)
税金が17万円安くなり、社会保険料が15万円高くなった結果、トータルでは2万円手取り額が増えました。大した金額ではないですが、所得金額500万円でも法人成りの方が有利になる場合があることをご理解頂けたと思います。ただし、法人化した場合、手取りが個人と会社に分かれてしまう為、法人にお金が残る分、個人に入るお金は減ってしまいます。そのため、役員報酬が300万円だと今の生活を維持できない可能性があるため、このケースだと、有利であるにも関わらず法人化はしないと思います。私ならそのように伝えます。単純に有利・不利だけで判断するのは間違っているし、税理士は色々な事を考慮した上で提案しなければなりません。
2.従業員がいる場合
コラム執筆時点で、ちょうど従業員4名いる個人事業主の法人化を検討しており、本人の許可を頂き、計算結果を公開します。わかりやすくするために金額は少し調整しています。
- 個人事業主:所得金額1,165万円(青色申告特別控除65万円控除前)
- 法人:年間の役員報酬480万円
現状 | 法人成り後 | 差額 | |
所得金額 | 1,165 | 1,165 | |
税金合計 ※1 | 268 | 130 | -138 |
社会保険料合計 ※2 | 79 | 339 | 260 |
税金社会保険合計 | 347 | 469 | 122 |
手取り額 | 818 | 696 | -122 |
税金が138万円安くなり、社会保険料が260万円高くなった結果、トータルでは122万円手取り額が減りました。要因は明らかで社会保険料負担があまりに大きいためです。所得が1,000万円超えていても、法人化が不利になるケースもあるという事がご理解いただけたと思います。この方は、従業員がさらに増えるために個人事業主のままでも社会保険に加入する必要があるため、法人化は必ず行うのですが、売上・利益をどの程度増やせば、122万円の負担増を解消できるかについて、検討している最中です。
5.まとめ
当税理士事務所は、法人化シミュレーションソフトを利用して、法人化の検討を数値化しています。この数値化は税理士に依頼しないと難しいので、顧問税理士がいる場合は顧問税理士に計算してもらい、顧問税理士がいない場合は、私たちのような税理士事務所に相談してください。税理士に相談せずに法人化することはお勧めしません。当税理士事務所では、法人化についても適切なアドバイスをおこないますので、法人化等のアドバイスがないなど不満をお持ちでしたら是非、ご連絡ください。顧問料などについては、以下をご覧ください。
一つ注意点としてお伝えしたいのは、簡易な法人化シミュレーションソフトの場合、従業員の社会保険料が反映されない場合があるようです。その場合、ミスリードする可能性が高いので注意してください。まさしく上の従業員がいる場合のケースです。従業員の社会保険料を反映しない場合、逆の結果になったと思います。税理士に計算してもらった場合、念のために、従業員の社会保険考慮してますよね?と聞いてみましょう。
また、法人化した場合、これまでの個人事業主の確定申告がどうなるのか気になるところです。法人化した後の個人事業主時代の確定申告に関する税務調査について、まとめたコラムがありますので、ご参照ください。