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領収書がないと、税務調査で必ず経費否認されるのか。
税務調査の相談を受けると、「領収書が全く残っていないのですが経費として認められるのでしょうか?」と質問を受ける場合があります。実際に税務調査の現場では、調査官から領収書がないので経費として認めませんと言われることがあります。今回は、領収書がない経費の取り扱いについてお伝えします。
【目次】
- 推計課税
- 領収書がない経費は認めてもらえる?
- 法人税及び所得税
- 消費税
- まとめ
1.推計課税
「領収書がなければ、経費として絶対に認められない」という事はありません。その1つの例が法律で推計課税が認められているからです。無申告の会社や個人の税務調査でよく採用される方法です。無申告の会社や個人は白色申告である場合が多く、領収書等も残っていない場合が多いためです。推計課税については決まった方法がなく、納税者に不利な計算方法を採用される場合も多々ありますので、税理士に立ち会いを依頼し交渉してもらった方がよいです。白色申告が前提ではありますが、青色申告であっても推計課税が採用される場合も実務ではあり得ます。調査官は早く終わらせたい、納税者は推計課税で納得できるのであれば、お互いメリットがあるのでそれでOKということになるのです。
法人税法
(推計による更正又は決定)
第百三十一条 税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人(各連結事業年度の連結所得に対する法人税につき更正又は決定をする場合にあつては、連結子法人を含む。)の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準(更正をする場合にあつては、課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額)を推計して、これをすることができる。所得税法
(推計による更正又は決定)
第百五十六条 税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる。
従って、特に無申告の会社や個人事業主の場合、領収書等が全くなかったとしても一定程度の経費は認めてもらう事が可能です。しかし、これはあくまで法人税と所得税です。消費税はまたルールが異なります。消費税は後ほどお伝えしますが、推計課税が採用されるケースでは消費税法を厳密に適用すると経費は全く認められません。
では、税務調査の現場ではどうでしょうか。これは調査官によりますが、領収書が残っているものだけ認めてくれるケースが多い印象です。これから適切に確定申告してくれることを前提とした調査官の温情だったりします。しかし、法律を厳密に適用して全く認めないケースも聞きますので、過度な期待は持たない方がよいでしょう。
2.領収書がない経費は認めてもらえる?
これからは推計課税を前提とせずにお伝えします。
1.法人税及び所得税
「領収書等を保管しなければ、経費として認められない」という要件は、法人税法や所得税法には書かれていません。従って、調査官から領収書がないから経費として認められませんと言われても、領収書がないという事実だけでは、本当は否認できないはずです。しかし、証拠が全くない状態で経費を認めさせることも難しいわけです。だからこそ可能な限り、クレジットカードで支払うなどして日付・金額・購入物などを客観的な証拠に基づき説明できるようにしておくべきです。クレジットカード明細では購入したものはわかりませんが、何を購入したかは本人がわかっているのでそれを主張すればよいですし、それでも調査官がごねるのであれば、「じゃあ反面調査に行ってよ!」と言ってしまえば多くの調査官は認めてくれます。なぜなら、調査官もそこまで時間をかけられないからです。いつもお伝えしている事ですが調査官に嘘をつくことはやめてください。
原案を探しきれなかったので、領収書の保管要件がない間接的な根拠を紹介している税理士のコラムをご紹介します。国税庁は毎年、税制改正意見(国税庁の要望)を提出するのですが、その中に以下のような内容があるようです。
必要経費及び損金の額の算定における帳簿及び請求書等の保存義務規定の新設 ~ 所法37、法法22
所得税法第37条及び法人税法第22条第3項の損金の額への算入要件として、「帳簿及び請求書等の保存」を要件とする旨の規定を新設する
つまり、所得税や法人税についても消費税と同じように帳簿及び請求書の保存を前提に経費として認める法律に変更しろと要望しています。この要望を出しているということは、裏を返すと今は請求書等の保管は要件ではないということを意味しています。
2.消費税
消費税の仕入時税額控除を認めてもらうには、帳簿と請求書等を保管しなければなりません。消費税法上で明確に規定されています。従って、税務調査の現場でも、国税不服審判所の裁決例でも、所得税や法人税の計算上経費として認められたが、消費税の計算上経費として認められないという事例は腐るほどあります。
3.まとめ
領収書がない場合に、経費として認められるケースと認められないケースについてお伝えしました。税務調査では、法人税や所得税の申告義務しかない場合、仮に領収書がなかったとしても納税者に有利な推定計算を採用してもらう事ができれば、大ダメージを受けることはありません。しかし、消費税の申告義務がある場合、領収書がない(本当は帳簿も必要です)と消費税の納税額に大きな差が出ます。従って、当たり前の話ではありますが領収書などは必ず保管し、可能な限りクレジットカードで支払う事を意識してください。それがご自身の身を守ることにつながります。