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競馬で儲けている方は、確定申告が必要です。
今回は競馬に関する税務調査です。私は数年に1度、年末の有馬記念だけ馬券を購入したりしますが、普段は全くやりません。最後に購入したのがジェンティルドンナが勝った有馬記念なので相当前ですよね。当税理士事務所の顧問先にも仕事の付き合いでやる方はちらほらいますが、本格的に競馬で儲けようとしている方はいません。以前、普段は会社員として勤務しつつ競馬で稼いでいる方から相談がありましたので、競馬の払戻金に関する税務についてご紹介します。最初の相談後から連絡がなく立ち会うことはなかったため、このコラムにて結果をご提示できないのが残念ではあります。
また、弊所の方針として単発のご依頼はお受けしていませんので、競馬の確定申告についてもすべてお断りしている点はご了承ください。顧問先が競馬で儲けて確定申告が必要になった場合は対応しているのですが。
【目次】
- 払戻金には税金がかかります
- 一時所得の場合
- 雑所得の場合
- 一時所得と雑所得の税負担
- まとめ
1.払戻金には税金がかかります
私も税理士になるまでは知りませんでしたが、レースの予想が的中し払戻金が発生した場合、その払戻金に対して税金がかかります。ほとんどの方はそんなこと知らないでしょうし、知らなくても問題ない場合がほとんどです。しかし、趣味の範囲内ではなく営利目的で競馬をやっている方には非常に影響がありますので、ご注意ください。今回、相談にいらした方も営利目的でした。
1.一時所得の場合
競馬を趣味の範囲内でやっている場合、一時所得に該当します。今まで税金払っていないよとドキッとされる方もいるかもしれませんが、先ほどお伝えした通り、問題がない場合がほとんどです。その理由は一時所得の計算方法にあります。一時所得は競馬の払戻金のみであることを前提にします。
一時所得の計算方法
一時所得=(払戻金で得た収入ー当たり馬券の購入費ー特別控除額50万円)×1/2
ここでのポイントは、50万円以上儲かっていなければ税金を払わなくてよい点と経費にできるのは当たり馬券のみである点です。はずれ馬券は経費にできません。結局、趣味でやっている方は年間50万円以上儲かるケースは少ないと推測されるため、問題ないとお伝えしました。勿論、趣味でも毎週のように通っている方や、万馬券が当たったりすれば、50万円を超えることもあるでしょうから、その時は納税義務が発生します。しかし、ネットで馬券を購入していない限り足がつきにくいので、税務署にバレる可能性は低いのが現状です。でも、しっかりと申告してくださいね。
2.雑所得の場合
まず初めに雑所得の計算方法をお伝えします。
雑所得の計算方法
雑所得=払戻金で得た収入ー当たり馬券の購入費ーはずれ馬券の購入費
ここでのポイントは、はずれ馬券を経費として処理できる点につきます。このはずれ馬券を経費にできないと、営利目的で大規模にやっている方はかなりの税金を取られてしまいますので、一時所得ではなく雑所得として認定してもらいたいはずです。では、雑所得として認定してもらう条件はどのようになっているのでしょうか。
所得税基本通達を整理すると、このように規定されています。競馬の馬券の払戻金は原則として一時所得である。しかし、営利を目的とする継続的行為から生じた場合は雑所得であると。
営利目的で競馬をやっている場合の所得区分については裁判でも争われており、2015年に最高裁において雑所得として認定された裁判が非常に有名で、ここでは営利を目的とする継続的行為は「行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等を総合考慮して判断」すべきと整理し、雑所得として認定されたものです。この裁判の結果、国税は基本通達を改正し営利を目的とする継続的行為をより具体化しました。その結果、雑所得として認定されるには、回収率が100%を超えるように年間を通じて購入し続けることが客観的に明らかな場合などに限定しています。これってかなり要件が厳しくないですか?しかし、この要件は法律に書かれたものではなく、あくまで基本通達に書かれたものなので、税務調査において交渉の余地があります。とはいえ、その余地は少ないですし裁判で負けている事例もありますので、とても厳しい交渉にはなりますが。
通達とは(税務通信より)
通達は、国税庁を拘束する規定であっても、法規ではないので、国民や裁判所までこの通達に拘束されることはありません。しかし、実際の税務行政はこの通達に基づいて執行されるため、実務上は非常に重要なものといえます。
2.一時所得と雑所得の税負担
私に相談に来られた方の場合、営利目的で競馬をやっており、赤字だった年もありますが毎年それなりに儲かっているとの事でした。利益が結構あると一時所得か雑所得かで納税額が大きく変わるので、まずその具体例を見ていきます。例えば、利益200万円のケースで考えてみます。
・年間収入額(払戻金の年間合計額):2,000万円
・年間馬券購入額(当たり馬券+はずれ馬券):1,800万円 その内、当たり馬券は100万円
一時所得=(2,000万円-100万円-50万円)×1/2=925万円
雑所得=2,000万円-1,800万円=200万円
明らかに結果が異なります。そのため、税務調査では厳しいとはいえ雑所得として認定してもらえるように勝負せざるを得ません。
3.まとめ
払戻金の税務調査ついては、これまでの裁判例を見ても、結論の根拠に関して明確な基準がある訳ではありません。それは当然で、様々な事項を考慮して総合判断すると言っているからです。つまり、税務署も各案件について勝てるかどうか確信がもてるわけではありません。だからこそ交渉する余地は一応あります。税務署も負ける可能性のある案件について裁判所に持ち込みたくないはずですので、とりあえず税理士を巻き込んで粘り強く交渉するのが正しい戦略だと思います。とはいいつつ、個人的には負け戦だと思っているので正直に言うと私は税務調査の立会いは受けないと思います。私に払う報酬が勿体ないので。
所得税法
(一時所得)第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。
所得税基本通達
34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(1) 懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)
(注)
1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。
3 競輪の車券の払戻金等に係る所得についても、競馬の馬券の払戻金に準じて取り扱うことに留意する。