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税務調査において従業員不正が発覚した場合、必ず重加算税か?
先日、税務調査で、従業員等のお金の使い込みがバレる場合についてお伝えしました。
そこではお伝え出来なかった従業員不正が発覚した場合に重加算税が課されるかについてお伝えします。本件は、国税不服審判所で争われるケースも多いため、それらの事例が参考になります。
【目次】
- 経営者が不正を行った場合は?
- 従業員が不正を行った場合は?
- 重加算税が課された裁決例
- 重加算税を回避できた裁決例
- 重加算税を課されないためには
1.経営者が不正を行った場合は?
今回は従業員不正があった場合に重加算税が課されるかについてお伝えするのですが、経営者が不正を行った場合はどうなのでしょうか?結論は、重加算税が課される可能性が極めて高いです。なぜなら、経営者の行為は会社の行為と同じとみなされるためです。ここは特段異論はないと思います。特に中小企業の場合、会社は経営者(=株主)の所有物ですから、同一視されるのは当然と言えます。
2.従業員が不正を行った場合は?
しかしながら、従業員の場合は、会社と同一視できない場合もあるため、争点となります。
税務署の調査官は、経営者だろうが従業員だろうが、不正が発覚した場合は問答無用に重加算税を課すと言ってくる可能性が高いです。会社(経営者)には、従業員等の監視監督責任がある以上、その責任を果たしていないのであれば、不正に加担したと同視できるという理屈なのでしょうか。しかし、その説明では経営者は納得しません。そのため、会社と税務署が対立することになります。では、どのように判断するのか、過去の裁決例を確認します。
1.重加算税が課された裁決例
歯科材料の卸売業を営む同族会社の従業員が行った不正経理行為が会社の行為と同一視できると判断し、重加算税が課された事例
国税不服審判所(平17.6.29裁決、裁決事例集No.69 18頁)
結論としては、以下の点を総合的に勘案して、重加算税を課すとの判断を下しました。
1.従業員は、重要な経理事務を担う地位にいたと認められること
2.不正な経理が、会社の納税申告に直接反映していること
3.不正な経理が、長期間にわたって行われ、かつ調べればその不正行為は容易に把握できたこと
4.にもかかわらず、会社はその把握するための行為を行わなかったこと
2.重加算税を回避できた裁決例
以下、従業員の隠ぺい、仮装行為が会社の行為と同視することができないと判断し、重加算税を取り消したケースを取り上げます。
①使用人の詐取行為における隠ぺい、仮装行為について、会社の行為と同視することはできないとした事例
国税不服審判所(平成23年7月6日裁決)
結論としては、以下の点を総合的に勘案して、重加算税を取り消すべき(仮装隠蔽はない)との判断を下しました。
1.従業員は、工場資材課の使用人であり、職制上の重要な地位や権限を与えられた事実はない
2.従業員は、会社の重要な経理帳簿の作成等を任されていた事実はない
3.従業員は、個人の私的費用を会社から詐取するために、独断で取引先に依頼して行っている
最近であれば、以下のような事例もありました。
②従業員が、架空の請求書を作成して会社に交付した一連の行為は、会社による行為と同視できないとした事例
国税不服審判所(令和元年10月4日裁決)
結論としては、以下の点を総合的に勘案して、重加算税を取り消すべき(仮装隠蔽はない)との判断を下しました。
1.従業員は、会社の経営に参画することや、経理業務に関与することのない使用人である
2.仮装行為は、会社の業務の一環として行われたものではなく、従業員が私的費用に充てるための金員を会社から詐取するために独断で行ったもの
3.従業員に対する会社の管理・監督が十分ではなく、本件仮装行為を発覚できなかったことをもって、本件仮装行為を会社の行為と同視することは相当ではない
3.重加算税を課されないためには
裁決事例をみると、税務署の主張が認められることもあれば、納税者の主張が認められることもあり、様々です。しかし、裁決事例のおかげで、ある程度傾向はみてとれます。では、従業員不正が発生した場合、どのように税務署と戦う必要があるのでしょうか。
①不正を行った従業員が、職制上、重要な地位を有しているか
⇒重要な地位はなく、一般の社員であることを主張する
②会社は、従業員の管理・監督が行っていたか
⇒会社としては、従業員の管理・監督を怠った訳ではなく、管理・監督を行ったにも関わらず、従業員が独断で不正を行ったものであることを主張する(会社としては、不正されないように努力したものの、従業員が会社の想像を超えて不正をおこなったという理屈)
ここで大切なことは、そもそも不正が起きないように体制を整えておくことです。前回のコラムでもお伝えしましたが、例えば、①事務所に多額の現金を保管しない(小口現金のみ)、②通帳の履歴を定期的にチェックする、③預金の引き出しは複数人で実施、④取引先との証憑のやり取りは営業ではなく経理と直接やり取りする仕組みにする、などの対策を講じることです。他にも方法はありますが、このような体制を整えることで、上記の主張ができると考えます。
そして、税務調査では、嘘の主張をすることはダメですが、事実に基づくと重加算税が課される案件ではないのであれば、しっかりと主張することが大切です。今後の事も考えると、重加算税はとにかく避けなければなりません。その理由は、以下のコラムをご覧ください。
税務調査において重加算税を回避しなければならない理由とは